2017/08/28

DMCA悪用はなぜ問題なのか – ウォンテッドリー社の悪評隠蔽事例

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ビジネスSNS、Wantedlyを運営するウォンテッドリー社のDMCA悪用が話題になっています。

同社のIPOに向けた資料を解説したブログ記事「Wantedly(ウォンテッドリー)のIPOがいろいろ凄いので考察」に対して、ウォンテッドリー社によってDMCAに基づく削除申請が行われました。
その結果、記事はGoogleの検索結果から消され、その記事を言及したツイートは非表示にされています。

DMCA申請は画像の著作権違反を問題視してとのことですが、インターネット上で多く流布されているような画像へのDMCA申請であって、実際は悪評隠蔽の意図であることは明白です。

このことが大きな話題になった今もメディアの取材に対して、悪評封じの意図は無く「弊社が著作権を有する画像の無断使用はやめていただきたいとの判断」と、あくまでも画像の無断利用を問題視しただけ、と主張しています。

私はこれが許されるべきことではないと考えます。

だれが見てもDMCAを悪用したにも関わらず、悪質な意図ではないと逃げ切ろうとする企業としての姿勢を疑います。

もしこの話が通り「悪評ページの粗を探してDMCA申請を行い検索されなくする」事が許容されてしまうならば、インターネットの自由や信頼性が揺らぐ大事件だと考えます。

ウォンテッドリー社のDMCA悪用について憤っているのは私だけではありません。
たとえばTwitter検索で[wantedly 退会]と検索した結果を御覧ください。エンジニアを中心とした数十名の憤りを確認できます。

あなたはこれを大げさと思われるでしょうか?私はそうは思いません。DMCA悪用はそれくらい大きな問題を抱えた禁じ手なのです。
この記事では、どうしてDMCAの悪用が許されない事なのか、この記事で説明いたします。

DMCAの現状と問題点

インターネット上には著作権違反が溢れかえっています。

普通にネットで触れる著作権違反は軽微な違反がほとんどでしょうが、インターネット上には映画やアニメなど映像作品の全編やマンガのデータなど、明らかに権利者の利益を大きく損失させる著作権違反コンテンツが溢れかえっています。

それらのコンテンツが検索エンジンを通して拡散する問題への対抗策として一番有効なものはDMCA、デジタルミレニアム著作権法です。

DMCAは、著作権を守るための米国の法律です。詳細はWikipediaなどが詳しいのでご覧ください。

DMCAに基づいた手続きを行うと、著作権者は権利を侵害するコンテンツに対して比較的容易な手続きで削除申請ができます。そして申請を受けたプロバイダ、たとえばGoogleやTwitterは、それを早期に削除する義務があります。その削除は情報発信者への確認などを行わずに行うことが許され、誤った申請を削除したとしてもプロバイダ・サービス側は罪に問われません。ただし削除後に情報発信者から削除に対する異議が申請された場合、随時調査して問題ある場合は復活が行われます。

DMCAは米国の法律ですが、日本のインターネットにも大きく関係します。日本のアニメ作品などは米国の悪質なサイトで無断配信されていますが、DMCAがあるおかげである程度を封じる事に成功していますし、日本国内でも悪質な著作権違反を行うサイトの検索結果からの追放がDMCAを活用することで実現できています。

Googleは著作権侵害の申請の履歴情報を公開していますが、これは東映アニメーションが権利を持つコンテンツに対する申請を抽出したものです。

ほぼ毎日数万から数十万URLの著作権侵害を訴えています。そのURLを20ほど確認してみましたが、その全てが悪質な著作権違反のコンテンツでした。

東映アニメーションは、2015年からDMCA申請を始めたようですが、既に3100万URLを申請しています。2年8ヶ月で3100万URL、それを単純に割ると1日31,958URLを申請していることになります。これは東映アニメーションだけの数字です。これを世界中の各社が行っていることを考えますと、これらを普通に審査することは出来る量ではありません。

そのため、DMCAでGoogleやTwitter等の大きなプラットフォームに送付された削除申請の多くは、甘い審査で多くが削除されます。
主にGoogleはそれでも審査の品質をあげようとしています。おそらく機械学習を最大限に活用して、審査を自動化した上で精度をあげようと取り組んでいまして、ここ1-2年でも非常に品質は上がりました。
しかし、DMCA申請の量があまりに膨大で、かつ様々なタイプの申請があるためまだまだ誤判定は多く、特に削除は容易に行うことが可能です。

このこと、たとえ著作権侵害でなくても一度は削除されてしまいがちなことは明らかな問題です。
しかし、Googleだけでも毎日数百万の著作権違反申請を処理する必要があるいまのインターネットの現状を考えると、それは仕方がない事でしょう。著作権という極めて大切なことを守るためには、少しづつでも改善がされることを期待しつつ、問題があることを踏まえて著作権者、情報発信者ともに注意していくしかありません。

DMCA悪用の事例

これまで書いて来ました通り、増え続けるインターネット上の著作権違反に対抗して権利を守るために、問題がありつつもDMCAのしくみで対応しているのが現状です。

このような中、この問題に付け込んで、インターネット上から自分に都合が悪い情報を消そうとする悪質な人たちも少なからず存在しています。

日本でDMCAの悪用を行うのは主に知識もしくはモラルが無い個人が主ですが、これまでには数社の有名企業も悪用を行って問題になったことがあります。
その事例と結末をご紹介しましょう。

株式会社DYMによるタイ全裸事件隠蔽の試み

2016年春、株式会社DYMが社員旅行で行ったタイで全裸で騒いだ結果、警察が出動して現地でも多く報道された事件がありました。


それは日本でもニュースメディアやブロガーによって多くの記事になります。それらの記事を株式会社DYMはDMCAで隠蔽しようとしました。
「弊社のプレスリリースを無断引用し掲載」している、「ロゴ画像を無断で使用」しているなどの理由を付けて申請を行い、一時的にすべて検索結果から消し去ることに成功します。

この悪評隠蔽はその後話題になり、検索結果からも復活し、ソーシャルメディアを中心に大きな話題になります。タイ全裸事件だけならすぐに風化しただろう問題でしたが、隠蔽を試みた事で株式会社DYMという名前が悪評とともに記憶されることになりました。

株式会社DYMが様々な方法での情報隠蔽を行った件については、別の記事でDYMが評判の隠蔽に使った7つの手法として公開しております。

EPARK歯科、ステルスマーケティングの悪評封じの試み

EPARK歯科という歯科検索サービスがステルスマーケティングを多用しているという告発記事が公開されました。

記事が話題になった結果、EPARK歯科、とサービス名の検索結果はこのようになっています。

これを問題視したのか、EPARK歯科を運営するエンパワーヘルスケア株式会社はDMCA申請による削除を試みました。

その悪評隠蔽の試みが見つかり、ソーシャルメディアを中心に騒がれた結果、悪評のページは更に注目されより強固に検索結果に上位表示されるようになりました。

この顛末は、DMCA申請を受けたブログが記事にまとめられています。
EPARK歯科の制作会社からDMCA攻撃きたよ。 – (続)とある最底辺歯科医の戯れ言集

プロバイダ「光GiGA」「Toppa!」の悪評封じの試み

プロバイダ「光GiGA」「Toppa!」を運営する株式会社Hi-Bitが、その悪評を書いたブログ記事「(Hi-Bitがフレッツ光のサービス卸でまた行政指導。NTTを装う電話勧誘には要注意)」を検索結果から消すために様々なDMCA申請を行っていました。

その申請の中で自分が権利を持っていないフリー素材の著作権保持者を詐称してDMCA申請を送るという悪質な手法もありました。
その結果、フリー素材配布サイトが権利に問題ある画像を配布しているのではないかと問題視されるなどの騒ぎになり、被害者が増えます。
これも一度は検索結果から抹消されつつも、記事を書かれた方がDMCAによる裁定に反論した結果検索結果に戻ってきています。

この件はこのブログで詳細のレポートを「フリー素材に権利を主張するDMCA申請が悪評隠しに悪用されたと思われる事例」として記載しております。

この件も、悪評はすべて検索結果に戻っています。

その他の試み

その他にもDMCAによる悪評隠蔽の試みは多くあります。

わたしは2015年から定期的にDMCA申請の履歴を確認しては、悪用の事例をツイートしていますが、最近ではこのような事例がありました。

稚拙なものも多いですが、2chの特定スレを検索結果から消すために、著作権を侵害する情報を書き込んだ上でDMCA申請を行うような狡猾な申請もあります。

このように過去にもDMCAの悪用は多くありました。
ただ企業としてその手法を使うのは悪い評判を持つ中小企業が多いようです。

しかし今回のウォンテッドリー社によるDMCA申請は、上場目前という会社の規模としても社会的な影響力としても、これまでの事例とは異なる規模の会社が手を染めたということでこれまでとは異なることでした。

止まらないDMCAの悪用

DMCAの悪用を止めることは困難です。

先に書きましたとおり、インターネット上での悪質な著作権侵害が日々膨大に増え続けますので、DMCA申請を行うとまず消えるしくみにならざるを得ません。機械学習が進化すると良くはなるでしょうが、日本からの申請の特殊性などを踏まえると近日には改善されないはずです。

消えた後、情報発信者が異議申請をすることで対抗はできますが、消されたことに気づけないケースや、異議の申請が怖い、面倒、などの理由で消えたままになるケースも非常に多いです。
例えば私が2015年に報告しましたアニメの公式ページや正規許諾を受けたページが消された件ですが、いまもまだ検索結果から消えたままです。

ですので、悪意を持ってDMCAを活用すると、多くのページを検索結果から消しされる状態も続くと考えます。

企業ロゴを使うだけで消えます。
プレスリリースを元に記事を作成していたら消せます。
アスキーアートを使っても消せます。
コメント欄があるページなら消し放題です。

DMCAは著作者が権利を守るには必要なしくみですが、悪用して悪評を消そうという人には最高の抜け道になりえるのです。


ここまで書いてきました通り、DMCAはいまのWebと著作権を守るためには大切なものです。
しかし運用するには大きな問題、大きな穴があります。ですので、大切に注意して扱わなくてはならないものです。
そういうものを悪用するのは、インターネットでビジネスを行う会社にとっては信じがたいこと、大きなモラル違反でしょう。
なので、DMCA悪用は大きな問題なのです。

しかし、悪用は今後増える事でしょう。DMCA悪用はこれまでもDYMやHi-Bit、E-PARK歯科などそこそこの規模の会社が使ってきましたが、話題になる度に悪用する人も増えてきました。
今回のウォンテッドリー社の悪用はこれまでで最大の話題になっています。今回の騒動でDMCAを知った人によって悪用は更に増えるでしょう。

悪用でも申請が通りやすい現状を考えると、日本のインターネットにとって非常に嫌な流れがウォンテッドリー社によって始まったとも言えます。

しかし、この絶望的な流れへの対抗手段が無いわけではありません。
ひとつだけあります。

DMCAの悪用に対抗するたった一つの方法

米国でDMCAが施行されたのは2000年10月の事で、もう17年も運用されています。
著作権侵害が手に負えないほど増え始め、悪用もされるようになってからも数年経っていますので、悪用を防ぐ対策も行われています。
その中で一番有効なものは、情報公開です。

Googleの検索結果では、DMCAでURLが表示されなくなった場合、このような表示が現れてます。

DMCAによって消された情報は情報公開されます。今回のウォンテッドリー社の申請もGoogleの情報公開ページLumenのページ、それぞれで公開されています。

著作者の権利を守るというDMCAの目的だけを考えますと不要なはずの履歴情報が公開されているのはなぜでしょうか?
それは、わたしたちネットユーザに悪用防止の運用の役割の一部が投げられているからだと私は考えます。
DMCAは法律で定められた運用体制を取る必要がありますので、プラットフォーム側が対応できる範囲には限界があるようです。DMCAはプラットフォーム側だけでは運用出来ないとも言えます。

悪質な形で情報隠蔽を試みる動きが明らかになった場合、社会的に問題になる場合が多いです。
DMCAのシステムは、そのような一般ネットユーザによる監視と問題の指摘、拡散も含めて完成するものだと私は考えます。

もし悪用を問題視する人がいなかったなら、DMCAの悪用による情報の隠蔽が増え続けるでしょう。

悪質な著作権違反や、その状況を悪用した情報隠蔽を図る人達とは、ぜひ戦ってください。

DMCAの悪意と戦う方法

まずは自分のサイトをお持ちでしたら有効なメールアドレスでGoogleのSearch Consoleに登録してください。それで自分のサイトにDMCA申請が来た場合はすぐに分かるようになります。
そして、自分のサイトに悪質なDMCA申請が来た場合は、すぐに異議申請を出しつつソーシャルメディアなどで拡散しましょう。

またお時間がある人は、情報公開サイトで悪用がないかを探してください。
私は数十の有名サイトやDMCA申請が多いサイト、自分が好きなサイトに対するDMCA申請を定期的に監視していますが、このようなURLで誰でも見ることができます。

そしてDMCAの悪用を発見した場合、Twitterなどソーシャルメディアで拡散してください。隠蔽しようとした情報をより多くの人に知らせましょう。悪質な方法での情報隠蔽はより情報を拡散することになると痛い目を見せるべきです。

自分が発見した情報でなくても、悪質な情報隠蔽については拡散にご協力ください。

DMCAの悪用は、今後どんどん増えることでしょう。
それに歯止めを掛けるために出来ることは、それをすべて失敗事例にすることです。

DMCAの悪用が大きなリスクを持っていることが多くの人に知られるようにすること。
それがDMCAのしくみを円滑に動かし、インターネット上での著作権を守ることに繋がると私は考えます。

「消すと増える」インターネットであり続けるために

今回の騒動で「消すと増える」という表現がよく見られました。

情報隠蔽をしようとしても、それが話題になることで隠そうとした情報がより多く見られるようになる、いわゆる「ストライサンド効果」と呼ばれる事象です。

しかし「消すと増える」は必ずしも正しくはありません。

正しくは「消すと(監視している人に発見され、それを多くの人が問題視して拡散しようと努力した結果、その情報が拡散されて)増える」のです。

自発的に「増える」のではありません。「増やす」人がいるからストライサンド効果が生じて、情報の隠蔽が行いづらくなります。

より自由なインターネットのために、DMCAの悪用などによる自由な情報発信が阻害されてはなりません。そのために「消すと増える」状態を維持する必要があります。

私も今後もDMCAの悪用の監視と拡散は続けたいと思います。ぜひ協力して、悪質な方法で情報を隠そうとする人とは戦っていきましょう。



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